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東京高等裁判所 平成3年(行ケ)72号 判決

第1 請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、2(審決の理由の要点)は当事者間に争いがない。

第2 本願意匠が物品を「下地材止着用たる木」とし、別紙第一に示される構成態様からなる意匠であること及び引用意匠が物品を圧延形鋼とし別紙第二に示される構成態様からなる意匠であること、本願意匠及び引用意匠の各基本的構成態様及び各具体的構成態様が審決認定のとおりの態様であること(本願意匠の垂直壁と突起爪の高さの比及び突起爪の二等辺三角形の底辺対高さの比を除く。)及び両意匠の具体的態様において審決認定の(1)、(2)の相違点があることは当事者間に争いがない。

そして、別紙第一の本願意匠の形状からすると、本願意匠の垂直壁と突起爪の高さの比は約一:〇・四であり、突起爪の二等辺三角形の底辺対高さの比は約二:三であることが認められる(もつとも、これらの比の認定の僅かな相違は審決の結論に何ら影響を及ぼすものではない。)。

なお、原告は、両意匠は一定の断面形状を有する長尺材であつて、断面形状をいわゆるハツト形とする全体の基本的構成態様が一致し、横倒コ字形部の上端壁と垂直壁の長さの比を約一:一とした具体的態様において共通するとした審決の認定を争つているが、別紙第一及び第二に示される両意匠の形状からして、審決の右認定に誤りのないことは明らかである。

第3 原告は、本願意匠に係る物品と引用意匠に係る物品の類似性を争い、また、審決の相違点(2)についての判断の誤り及び全体観察における両意匠の美感の差異の看過をいい、もつて、両意匠は非類似であると主張するので、以下これらの点について判断する。

1 物品の類否について

まず、原告は、本願意匠に係る物品である「下地材止着用たる木」と引用意匠に係る圧延形鋼(型材)とは同一の物品でも類似の物品でもなく、共通性を有しないと主張する。

成立に争いのない甲第二号証によれば、本願意匠に係る物品である「下地材止着用たる木」は、垂木(金属屋根板等の面板を吊子を使用することなく固定して屋根面を形成するもの)としての機能に、フランジ部に突起爪を設けることにより、野地板等を叩打等により刺し込み係着させて、当該垂木間に差し渡した野地板等のずれ防止をも図るという機能を付加したものである。

一方、引用意匠に係る物品の圧延形鋼(型材)であるが、成立に争いのない乙第七号証によれば、標準学術用語辞典編集委員会編「標準学術用語辞典・建築学編」(誠文堂新光社 昭和五二年九月五日発行)には「形鋼」の説明として「(別名)型鋼;型材(略)。棒状の軟鋼圧延材でそのうち断面形状によつて等辺山形鋼、不等辺山形鋼(略)の種類がある。建築用の鉄骨、構造物主材として用いる。」(第七三頁左欄第一五行ないし第二一行)と記載されていることが認められる。これによれば、圧延形鋼は建築用材として多用途のものであることが認められる。そして、具体的用途として、審決認定のカーテンウオール、建具及び建築用開口部、手すり、トラツクの車体等に用いられるものであること、そして垂木としても用いられることは当事者間に争いがない。

以上によれば、本願意匠の物品に係る「下地材止着用たる木」も引用意匠に係る物品である圧延形鋼も、ともに垂木としての用途を有するものであるが、前者が用途を垂木に限定する一方、下地材固定機能を付加したものであるのに対し、後者は建築用材として広範な用途を有し、垂木としての用途はその一部にすぎず、また、下地材固定機能は有していないという点で相違するものということができる。

なお、原告は、本願意匠の「下地材止着用たる木」の下地材固定機能を強調し、物品として新規なものである旨主張するが、原告の主張によつても、一般の垂木でもその間に下地材を差し渡すのであり、ただ、その固定のためにビスなどの固定具が別途必要とされたが、本願意匠の「下地材止着用たる木」にあつては突起爪を設けることによりそれを不要にしたというものにすぎないものであるから、本願意匠の「下地材止着用たる木」の下地材固定機能は、垂木に付加された従たる機能に止まり、これによつて、従来の垂木と異なる物品となるものではない。

以上のことからすると、本願意匠の「下地材止着用たる木」と引用意匠の圧延形鋼とは機能の一部を異にし、用途も広狭の違いがあるので、同一の物品ということはできないが、ともに建築用材であり、垂木としての用途については一致しているものであつて、同一又は類似する意匠のものとすれば、取引者、需要者が物品の混同を生ずるおそれがあると認められるのであるから、両物品は類似するものというべきである。

したがつて、審決の本願意匠の「下地材止着用たる木」と引用意匠の圧延形鋼とは類似の物品であるとした判断に誤りはない。

2 相違点(2)に対する判断について

原告は、審決が、本願意匠のように切り起こし爪(突起爪)を設けることは本件出願前より周知であつて創作性がないとした判断及び本願意匠の突起爪の二等辺三角形の形状もありふれたもので、かつ、その配し方も疎らであるため、看者に異なつた意匠的効果を与える程の特徴を有しないとした判断の誤りをいう。

まず、原告は、審決が切り起こし爪が本件出願前より周知であることの根拠として引用した昭和五五年実用新案出願公開第一四九〇一二号公報の図面に記載されているのは、<省略>形の長尺金属製垂木の上壁に切り起こし爪が二列にわたり多数突設されているものであり、高所で垂木の上を飛び歩く作業者にとつて危険極まりないものであるから、実用化には程遠いものであるので、これをもつて切り起こし爪が周知であつたとすることはできないと主張する。

しかし、右公報に記載された切り起こし爪を設けた垂木が作業者にとつて危険極まりないもので実用化には程遠いとの主張は直ちに肯認しがたいのみならず、実用化の有無にかかわらず、右公報に下地材固定のための切り起こし爪が開示されているのであるから、本願意匠の突起爪が原告の主張するような画期的な創作ではなく、当業者にとつて周知であつたことが明らかにされているというべきである。

それのみならず、成立に争いのない乙第一四号証によれば、昭和五六年特許出願公開第一三五六六一号公報(発明の名称「外囲体」)の明細書には、「次にその構造を図面について説明する。(略)(2)は長尺で、断面ハツト形の堅梁材であつて、門形部(3)の両下端より外側に水平部(4)(4)が一体形成されている。その堅梁材(2)に一方の水平部(4)または両側の水平部(4)(4)には先鋭の舌片(5)がプレス加工等によつて切り起こされ、水平部(4)上の長手方向に所定間隔をおいて複数設けられている。その舌片(5)を設けない場合もある(第四図参照)。」(第三頁左下欄第五行ないし第一四行)と記載され、その第二図には、ハツト形の堅梁材のフランジ部に二等辺三角形の突起爪が長手方向と直交するように配設されているものが記載されていることが認められ、また、成立に争いのない乙第一五号証によれば、昭和五五年特許出願公開第五九二六八号公報(発明の名称「断熱外囲体」)の明細書には「その構造を図面について説明する。(略)(2)は長尺の縦梁材であつて、高さ(h)の門形部(3)の両下端より外側に水平縁(4)(4)が形成されている。この縦梁材(2)の門形部(3)水平縁(4)(4)は押出成形で一体に構成されている。この両側の水平縁(4)には先鋭の舌片(5)(図面では三角形)がプレス加工等によつて、切り起こされている。この舌片(5)は、水平縁(4)上の長手方向に所定間隔をおいて複数設けられ、その舌片(5)を平面的にみた方向は、第四図に示すように縦梁材(2)の長手方向に直交するように設けたり、又は第五図に示すように縦梁材(2)の長手方向を向くように設けられている。」(第二頁左上欄第一行ないし第一四行)と記載され、その第五図には、ハツト形縦梁材のフランジ部に、本願意匠と同じく、二等辺三角形の突起爪が垂直壁に面して設けられているものが記載されていることが認められる。

以上によれば、ハツト形鋼のフランジ部に突起爪を配設することは本件出願前より周知であつたというべきである。

なお、原告は、前掲乙第一四号証及び乙第一五号証は、審判段階において拒絶の根拠として原告に示されていないので、本件訴訟において提出することはできない旨主張する。

しかし、審決は、昭和五五年実用新案出願公開第一四九〇一二号公報を一つの例として示して、垂木の上壁に切り起こし爪を長手方向に所定の間隔により配設して下地材を固定する機能を付加することが本件出願前より周知である旨説示したものであり、前掲各証拠も、本願意匠に対比すべき類似の意匠として引用する趣旨で提出されたものではなく、審決において周知事項であるとして示した例に追加するものにすぎないものであるから、その提出はなんら妨げられるものではない。

また、原告は、本願意匠の突起爪がフランジ部に設けられていることをもつて新規の形状である旨主張するが、それが誤りであることは前述のことから明らかである。

更に、原告は、本願意匠は引用意匠に比べてフランジ部が短く、そこから突起爪が突設されているので、看者である建築工事者は斬新な印象を受ける旨主張するが、これもフランジ部に突起爪を配設したものが新規の形状であることを前提にするものであるところ(原告は、具体的態様における相違点(1)についての審決の判断、すなわち、両意匠におけるフランジ部の幅と横倒コ字形部の上壁の幅の比の相違は、この種の物品の分野における慣用的変更の範囲内のもので、細部的変更にすぎないことは認めている。)、その前提が誤りであることは前述のとおりであるから、原告のこの主張も理由のないものである。

以上のとおり、本願意匠のようにハツト形鋼のフランジ部に突起爪を設けることは、本件出願前より周知であり、特に斬新、新規なものとして注目を引くものではない。

勿論、登録出願に係る意匠の一部の形状が周知であり又はありふれたものであることをもつて、直ちに意匠の類否の判断においてそれを無視するのは相当ではなく、引用意匠との対比においてそのことによる形状の差異は十分考慮にいれられるべきである。しかし、本願意匠の突起爪は小さく、その高さも垂直壁の二分の一以下であり、かつ、その配し方も疎らであるため、両意匠の類否の判断においてそれほど大きな評価は与えられないものである。

したがつて、審決が、本願意匠の突起爪をもつて、看者に異なつた意匠的効果を与える程の特徴を有するものであるとは認めず、両意匠の類否の判断を左右する程の顕著な差異とはいえないとした判断に誤りはない。

3 全体観察における美感の差異について

原告は、本願意匠と引用意匠とを全体観察した場合、本願意匠にあつては肉薄で、フランジ部が短いため、「シヤープ」、「スマート」、「軽量」の言葉で表される美感を与えるのに対し、引用意匠にあつては肉厚で、フランジ部が長いため、「鈍重」、「素朴」の言葉で表される美感を与えるとして、両意匠の美感の差異を主張する。

確かに、前述のとおり、上壁とフランジの長さとの比は、本願意匠にあつては一:〇・六、引用意匠にあつては一:一であつて、本願意匠のフランジ部は引用意匠のそれに比して短く、また、別紙第一及び第二によれば、断面形状を見た場合、本願意匠は引用意匠に比して肉薄であると認められ、両意匠の当該部分のみを注視するならば、本願意匠がスマートな感じがするのに対し、引用意匠がどつしりとした重厚な感じを受けるという美感の差異があることは確かである。しかし、その差異は僅かであり、また断面形状を見た限りのものであつて、平面又は側面から見た場合には看者に美感の差として受け取られるものではないから、これらをもつて、両意匠を非類似のものとする根拠にはなりえない。

4 まとめ

以上のとおり、本願意匠と引用意匠とは、断面ハツト形の長尺材であるという基本的構成態様において一致し、また横倒コ字形部の上端壁と垂直壁の長さの比を約一:一とした具体的態様において共通するものであるところ、これらの点が看者に与える共通した印象は決定的に強く、両意匠の美感を大きく支配するものと認められ、フランジ部の長さ、型材の厚み及び突起爪の有無の相違からくる美感の差異を大きく凌駕するものと認められるのであるから、両意匠は類似するものというべきである。

したがつて、以上の点から両意匠は類似するものとした審決の判断は正当である。

第4 よつて、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却する。

〔編注1〕本件の特許庁における手続の経緯は左のとおりである。

訴外舩木元旦は、昭和五七年三月三日、意匠に係る物品を「垂木」とし、その形態を別紙第一に示すとおりのものとする意匠(以下「本願意匠」という。)につき意匠登録出願(同年意匠登録願第八四五九号)をし、昭和五九年一月二三日、意匠に係る物品を「屋根下地板止着用たる木」と補正したが、同年三月一三日、拒絶査定を受けたので、同年六月一五日、審判を請求し、平成二年六月二五日、審判請求人を承継人原告とする審判請求人名義変更届けをしたが、平成三年二月五日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は、同年三月一三日、原告に送達された。

〔編注2〕本件における別紙は左のとおりである。

別紙第1

意匠に係る物品 屋根下地板止着用たる木

説明      背面図は正面図と同一。右側面図は左側面図と同一。左側面図に於て左右方向に連結する。

<省略>

別紙第2

意匠に係る物品 圧延形銅

<省略>

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